ブラック・ストロベリー
「…でも、許したわけじゃないんで」
いつも通りの自分だ。
いつまでも弱気で、うじうじしていたら、それこそあの男はフラっと顔がかわいいアイドルのもとへ行ってしまうだろう。
アイツ音楽の世界に、ほかの女の子がはいるなんてきっと、耐えられない。
気付いてたはずなのに、いまさら。
別に、
アイツに言われたから行くわけじゃない。
俺の歌を聴きに来い、なんて生意気な。
結局自分の言うこと全部聞くと思われていること自体ムカつく。
わたしが勝手に、大丈夫だと思って言葉にしないことも許さない。
わたしは私の意志でいくのだ。
簡単にほかの男に乗り換えようとすんな、
なんて。
何年にも一緒にいた癖に、ほんとに何一つわかっていない。
乗り換えようとする女だって思っていることも許せない。
こんなにも、ムカつくことばかりなのに。
こんな終わらせ方、できない。
「ヒナセは、思ったとおり頑固だな」
楽しそうに言う藤さんにそれってほめてるんですか?と問えばまた、可笑しそうに笑った。
それでいいと思うよ、藤さんの大きな手が頭に降りてきて。
「綺麗だよ、すごく」
わしわしと、私の頭の上でその優しい手のひらが動いた。
女の子は恋をすると綺麗になる、あの可愛く笑うミキちゃんのように。
いい年して恋なんて、笑ってしまう。
でも、
わたしを綺麗にするのはあいつしかいない。
当の本人は気づかずに、ギター片手にかき鳴らしているだけだけれど。
でもそういうところを、7年前、わたしは好きになった。