鏡の先の銀河鉄道
シリウス
 「ジョバンニ!!」
 開いた扉から聞こえてきたのは、甲高く弾んだ少年の声だった。
 背中越しに響く声の主を確認しようと、座席から顔を出して扉の方を見た。そこには、ニコニコと嬉しそうに笑っている少年が立っていた。
 俺は、どうしていいのかわからずにジョバンニの方に視線を戻した。
 ジョバンニは、その少年の事を笑顔で迎えていた。
 
 さっきまでは、違う嘘に似た笑顔で。
 
 「久しぶりだね、シリウス。」
 俺は、ジョバンニが口にした『シリウス』という名前に聞き覚えがあった。
 この少年のことではなく・・・そう、理科の授業で聞いた名前。

 確か、星の名前だ。
 
 ちゃんと授業を受けていた訳じゃないから、何座の星なのかなんて知らないけど。俺は、この名前を聞いたことがある。
 ジョバンニと話している『シリウス』という名の少年は、中性的な印象の綺麗な顔立ちの少年だった。
 「やぁ、カムパネルラも一緒だったんだね。会えて嬉しいよ。」
 俺に向かって満面の笑みを浮べているシリウスもまた、俺の知らないカムパネルラという存在を知っていた。
 
 また、俺の知らない世界が広がる。
 
 「ああ。」
 どんな風に返事をして良いのか分からずに、無愛想で短い返事しか返せなかった。
 「元気ないね、カムパネルラ。・・・それとも、機嫌が悪いのかな?」
 シリウスが知っているカムパネルラは、今の俺とは違うらしい。
 「いつもは、もっと明るいのに嫌なことでもあったのかい?」
 心配そうに声をかけてくるシリウスに何も答えることが出来なかった。俺の代わりに答えたのは、ジョバンニだった。
 「そうなんだよ、今日のカムパネルラは少し変みたい。」
 いたずらっぽい声で、ジョバンニは答えた。
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