鏡の先の銀河鉄道
 ああ、今日も同じだ。
 
 そんなことを考えている。
 それでも、自分では変化なんか起こせなくて同じ毎日を同じように過ごしていくことに安心する。

 学校に行って、馬鹿話して、授業受けて、家に帰る。
 
 そんな当たり前の日常が、安心できて好きなんだ。変化なんか、欲しくはない。どこかで、望んでいるのかもしれない。自分の知らない世界を、非日常を。それでも、目の前にその世界を見せられたら前には進めない。
 今日は、一日変なことを考えている。学校のトイレで鏡を見ながら、朝と同じような事を考えている。どこか、体調でも悪いんじゃないかと自分の身体が心配になってきた。それでも、また鏡に手を伸ばしながら恐怖と懐かしさを感じる。
 「この先に、世界はあるのか?」
 答えを返えさない鏡に向かって、問いかけのような言葉が漏れる。
 答えない、鏡の中の自分の表情が少し変わった気がした。気のせいなのものわかってる。これは、何も変わらない自分・・・いつもと同じように、逆さまでマネをする自分。
 
 ――キーンコーンカーンコーン
 
 耳に響くチャイムを聞きながら、鏡から手を離す。

 「早く行こうよ!」
 
 誰もいないトイレに響く声。
 そして、痛みを感じるほどに強く握られた自分の腕。痛みと驚きに、何もかもが止る。時間も、世界も、そして思考すらも。
 動けない自分。それを見下ろすように、俺を見ている、俺。鏡の中の自分は、完全に別の生き物になっていた。感情も、考えも、全く違う存在に変わっていた。
 「誰・・・だ・・・。」
 言葉が詰まりながらもやっとその言葉だけが俺の口をついて出た。
 その言葉に、俺の腕を掴んでいた手に力がさらに加わった。
 「何を言ってるの、カムパネルラ!」
 鏡の中の俺は、ためらいもなく俺のことをカムパネルラと呼んだ。
 「俺は、カムパネルラじゃない!!」
 叫んでいた。自分の意思とは関係なく、気づいたら叫んでいた。『カムパネルラ』という存在を拒絶するように。
 「君は、僕の親友のカムパネルラだ。他の誰でもない。」
 「違う!!違う!!!俺は、そんな奴じゃない!!!俺は、平塚 陣だ!!!お前なんか、知らない!!」
 「僕のこと、忘れちゃったの。僕だよ、ジョバンニだよ。」




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