鏡の先の銀河鉄道
 『サザンクロス』俺の知らない名前。ジョバンニが口にしたその名前は、多分この銀河鉄道の駅なんだと思う。
 「分からない・・・。」
 何も知らない駅に行きたいのかといわれても俺には、わからなかった。
 「そう、君はその駅に行きたいんだよ。君が行きたいのなら、僕は着いていくだけだ。」
 
 俺が、そこに行きたい。
 
 行きたいのは、俺はじゃない。
 
 『サザンクロス』と呼ばれる駅に行きたいのは、ジョバンニなんだ。それでも、かまわない俺はただ自分が向かうべき目的が欲しいだけ。
 「そうだな・・・俺は、そこに行きたい。」
 自己暗示ような言葉をつぶやいていた。
 「一緒に行こう、サザンクロスに。」
 
 そして、沈黙が俺たちの間に戻ってきた。
 
 『サザンクロス』という言葉を口にしてから、ジョバンニの感情が少しだけ変化した気がした。彼の表情や、感情の変化に敏感な自分がいた。俺と同じ顔をした、俺じゃない人物。考え方や、思っていることが違っても俺とジョバンニは同じなのかもしれない。だから、俺は彼の小さな変化を感じる。
 
 突然、銀河鉄道が止まった。あまりに突然のことに、踏ん張ることが出来ず身体が一瞬中に浮いた。
 「何だ?」
 「おかしいな、次の駅まではまだのはずなんだけどな。」
 事情の分からない俺たちは、あたりを見回すことしか出来なかった。
 『シバラクオ待チ下サイ。オ客様ガ、ゴ乗車中デス。』
 機械的な声で、車内放送が流れた。
 「なんだ、心配して損した。」
 車内放送を聴いて安心した様子で、ジョバンニは深く座り直した。
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