春風駘蕩



「もっと……」

背伸びだけじゃ足りなくて、巽に抱きついたまま片足を上げて巽の足に絡ませた。

それは、いつの間にかできたふたりだけの合図だ。

抱き上げて欲しい。そして離さないで欲しい。

想いを素直に口に出せない私が、唯一伝えることができる合図。

ゆっくり会える数少ない日の中で、寂しさに耐えた私が思わず見せるその仕草に、巽はいつも応えてくれる。

何も言わず、私を抱きしめ、包み込んでくれる……。

私はそれを待ちながら、頬を巽の鎖骨あたりに乗せ、足を必死で絡ませた。

すると、「どうした?」と巽の心配そうな声が聞こえる。

積極的に巽との距離を縮めようとする私に驚いているようだ。

それほど感情を顔に出さない巽だけど、私への愛情は言葉でも仕草でも素直に見せてくれる。

私を抱く時にも、我慢することなく自分の熱が冷めるまでとことん想いをぶつけてくるし、私が困っている時には迷うことなく手を差し伸べてくれる。

恥ずかしさや照れくささはないのかと聞けば、離れている時間があまりにも長い分、一緒にいられる時くらい、甘えたいし甘えさせたいということらしい。

そんな巽の強引な性格に対して、私はまだまだ気恥ずかしさが先に立ち、なかなか溢れる想いを口にも態度にも出せない。

なのに、今の私はこうして抱き上げて欲しいと巽にせがんでいる。

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