春風駘蕩


巽が私の様子をいぶかしがるのも不思議じゃないけど。

「この一ヵ月、寂しかった……その前は二カ月会えなかった」

「由梨香」

ぐずぐずと呟く私の体を抱き上げ、巽はリビングへと戻った。

ソファにおろされるのかと思ったけど、巽はテレビの前に腰をおろすと自分の膝の上に私を座らせた。

そして、私をその体に抱きかかえるように包み込んでくれた。

「どうした? 特技は我慢と強がりの由梨香がそんなに素直になるのは……ちょっと怖いな」

あやすように体を揺らし、私の顔を覗き込む巽。

普段と違う私に、不穏な何かを感じているようだ。

「いつもなら自分でチケットを用意できなかったら絶対に俺の演奏を聴きにこないのに。今日は内川さんにチケットを用意してもらうし」

「あ、うん。内川さんにはお世話になっちゃった。お礼しなくちゃ……」

「いいんだよ、そんなの。いつも俺のスケジュールを埋めすぎて由梨香に申し訳ないって言ってるから、チケットの用意ができてホッとしてるはずだ」

うんうんと頷きながら、巽はそう言ってくれるけど。

やっぱり巽の演奏は自分の力で手に入れたチケットで聴きに行きたい。

「巽のプライベートは私が独占したいけど、演奏家としての巽はひとりのファンとして正々堂々とチケットを手に入れたいの」

これまで何度も口にした思いを巽に伝えた。

すると、巽は小さな息を吐いた。

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