春風駘蕩
私自身もその期待に応えなければとがむしゃらに仕事を頑張っていた。
もちろん、苦しいことも多かったし、女性が注目を浴びることに批判的な男性からの視線もあった。
でも、仕事で結果を出すうちにそんな視線も少なくなり、次第に仕事が面白くなっていった。
「でも、私が仕事を頑張ってきたのは、胸を張って巽の隣にいたかったからだって、気づいたの。ヴァイオリニストとして確固たる地位を築いてる巽には、中途半端な人間は似合わないって思ってた。だから仕事も頑張ったし昇進もできた」
勢いづいて早口になる私の言葉に、巽は戸惑いを隠せないようだ。
「俺の隣って、それは由梨香に決まってるだろ? 好きなんだ、お前が。それだけで理由になるだろ」
私の言葉が理解できないとでもいうように、首をかしげた。
「それに、確固たる地位っていうけど、俺はまだまだこれからも練習してもっといい演奏ができるようにならなきゃならないんだ。今はたまたまCDも売れてるしコンサートのチケットも完売が続いてるけど、自分の演奏技術の未熟さは俺自身がよくわかってる」
自分のこととなると、必要以上に謙虚な巽。
ファンの方や音楽評論家の方からの評価がどれほど高くても、決して満足せずおごることもない。