春風駘蕩
「え? 追加?」
「そう。今日でとりあえず国内の公演は終了だったんだけど、ヨーロッパ公演の前にもう一度、弾けることになった」
ふうっと息をついた巽の手が、私の頭を抱いた。
「追加って、夢のひとつだったんだ。公演途中でその話は出たんだけど、会場を抑えるために内川さんが頑張ってくれてさ。俺って幸せ者だろ?」
ほんの少し震えている声は、喜びで溢れている。
これまで何度もコンサートは開いているけど、巽自身のスケジュールや会場の都合などでなかなか追加公演を実現させることはできなかった。
日本だけでなく海外でも演奏をしていて忙しいのも理由のひとつだ。
仕方がないとはいっても、私のように、チケットが手に入らず悔しい思いをする巽のファンも多く、追加公演を望む声を耳にするたび、巽は胸を痛めていた。
だけど、二カ月後に始まるヨーロッパ公演の準備のために近々渡欧する予定だし。
「……大丈夫なの?」
心配する私に、巽は「もちろん」と即答した。
「だったら、ヨーロッパ公演は?」
「それも予定通りだ。たまたま三週間ほど空いてる時期があって、そこに内川さんが追加公演を入れたんだ」
「そうなんだ……」
本当に大丈夫なのか心配だけど、巽の明るい声を聞いて、安心した。
なにより、巽の演奏を愛してやまない内川さんが、巽に無理をさせるわけがない。
これ以上私が心配しても仕方がないのだ。
それに、ようやく巽の願いが叶うのだから、私も一緒に喜ばないといけないな。