春風駘蕩




「だからせっかくの由梨香のプロポーズだけどさ、早く実行に移さないと、独身最後の国内での演奏っていうのは今日じゃないかもな」

もったいぶるような巽の声に思いをめぐらせると、ふと気づく。

「あ……そうか。その追加公演が最後ってことになるの? そうなると、その追加公演のチケットこそ頑張って手に入れなきゃ。あ、後援会の先行販売ってあるの? あとで内川さんに聞いて確認……あー、こうしてられないや。えっと、電話してみようかな……」

大切なことに気づいた私は、ソファの横に置いているカバンを取ろうと立ち上がった。

早く内川さんに申し込みの詳細を聞かなければ。

焦りながらカバンに手を伸ばすと、その手を巽がつかんだ。

「巽?」

驚いて巽を見れば、苦笑しながらくつくつ笑っていた。

「……やっぱり鈍いよな」

「鈍い? 私が?」

「そう。あのさ、俺としては、今日の公演を独身最後にしようと思ってるんだけど?」

巽は再び私をソファに座らせると、言い聞かせるようにそう言った。

「あ、うん。それって私がさっき言ったプロポーズだよね?」

思わず口をついて出た私の言葉をまねるように、巽は同じ言葉を口にした。

独身最後っていう響きに、私の願いを込めたんだけど、今巽がそれを繰り返したということは、もしかしたら。

「それって……巽からのプロポーズってこと?」

そうであってほしいと願う強い想いをどうにか抑えながら問えば、巽は力強く頷いた。

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