春風駘蕩
「入籍はすぐにということですが、結婚式はいつ頃を考えてらっしゃいますか?」
内川さんの落ち着いた声が部屋に響き、巽と私は顔を見合わせた。
巽との結婚を決め、互いの両親への挨拶も終えたあと、内川さんを交えて今後のことを話し合うことになった。
巽のマネージメントをしている事務所での打ち合わせに私が参加するのは初めてだけど、巽との付き合いが長い私は、事務所に顔見知りも多くて大した緊張もない。
打ち合わせルームで巽と私、内川さんと、マネージメント室長の小倉さんの四人で向かい合って座る。
小倉さんは五十代半ばの女性で、イタリアの音楽院で学んでいた巽の才能を見抜き、演奏家として活動を始めるきっかけを作ってくれた人だ。
学生の自分にはその実力はないとためらっていた巽を口説き落とし、日本でのデビューを実現させた強者。
グレーのパンツスーツを着こなす細身の体からにじみ出る熱意はかなりのもので、今も巽の結婚を、夏に発売のCDの売り上げにつなげられないかと考えている。
「巽に恋人がいるというのは周知の事実だから、結婚することで人気が落ちることも、もちろん演奏家としての力が損なわれるとは思わないけど、一生に一度のことだから、プロモーションにも利用しましょう」
力強い声でそう言って頷く彼女に、巽は苦笑している。