春風駘蕩
「金屏風の前で会見を一度開けば、由梨香がマスコミの前に顔を出すこともそうそうないだろうから、頑張ってくれ」
巽はそう言って、私の背中をポンと叩いた。
「まあ、私なりに頑張るけど、人前に出るのは苦手だし、今から緊張で泣きそう」
考えるだけでドキドキし、緊張感が溢れてくる。
仕事では強気で交渉したり粘ったりできても、根本は小心者の私。
金屏風を想像しただけで吐きそうだ。
そんな私を高校時代から知っている巽は、「じゃあ、由梨香が自分に自信が持てる、いいものをプレゼントしてやる」と言いながらニヤリと笑った。
ほんの少し胸をそらし、自信に満ちている表情。意味がわからない。
「……プレゼントってなに?」
「なんだろーな」
「あ、婚約指輪……とか?」
「単純だな。もちろん、それは由梨香の指にはめるし外すことは許さないけど。もっといいものだ。ちょっと耳を貸せ」
巽は、子供がワクワクと胸を弾ませているような、生き生きとした表情で私の肩を抱き寄せた。
「ちょっと、巽……」
ここは私たちの部屋じゃない。
国内最大手のマネージメント事務所だ。
向かい側には内川さんと小倉さんがいるし、抱き寄せられるなんて、恥ずかしすぎる。