春風駘蕩
巽がその言葉を私の耳元に注ぎ終えるのを待たず、私の頬には熱い涙が幾筋も流れ落ちた。
なんてキザなセリフをこうも平然と口にすることができるんだろう、このオトコは。
涙が止まらないし、ひくひくとしゃくりあげてしまうじゃないか……。
涙でにじむ視界の向こう側にある巽の顔を睨みつければ、私の肩に置かれた巽の手がするりと私の腕を撫でた。
愛撫のようなその動きに、体の奥がピクリと反応した。
「その顔、睨んでるつもりだろうけど、意味ないし」
「え?」
巽の堅く低い声に違和感を覚え、首をかしげた。
どうしたんだろう。私が泣く姿なんて、何度も見たことあるのに、感情を抑えたような声を出すって珍しい。
あまりにもブサイクな泣き顔に呆れているのだろうか。
「だって、巽が私の喜ぶことばっかり言うから……ばか」
頬を流れる涙を手の甲でぬぐい、くぐもった声で巽に文句を言った。
すると、巽は私の腕をつかみ、すっと立ち上がった。
「俺たち、今から入籍してきます。あとはお任せしますから、よろしくお願いします。披露宴会場はアマザンでもどこでもいいですけど、カメラマンを頼むなら、由梨香をキレイに撮れる腕のいいカメラマンにしてください。メイクも同様、まずは由梨香ありきで。そこだけおさえてくれれば、小倉さんと内川さんの好きに決めてください」
巽は内川さんと小倉さんにそう言ったかと思うと、『はいはい』と頷く二人を残し、私を引きずるように部屋の外に出た。
出る瞬間、焦って振り返った私に、笑いをこらえたような顔をした内川さんと小倉さんが、ひらひらと手を振っているのが見えた。