春風駘蕩



腕時計を見れば午後三時。

ここから十五分くらいだから、余裕で間に合う。

平日の大通りはわりと空いていて、区役所までの道のりはスムーズだ。

オフィス街から官庁街へと入り、しばらく走れば区役所に着く。

流れる景色を見ながら、落ち着かない気持ちを鎮めるようにそっと息を吐いた。

すると、私が緊張しているとでも思ったのか、巽の手が、膝の上にある私の手を包み込んだ。

爪がキレイに切りそろえられた長い指。

いつも温かさと優しさを私に与えてくれる。

そして、この手がヴァイオリンを操り、素敵な音色を生み出すのだ。

巽が大切にしているこの手を、私も大切にしていかなければ。

それも、嫁としての大切な仕事のひとつだ。

私は空いている手を巽の手の上に置いた。

巽が私を守り、私が巽を守っていくと誓いながら、何度か巽の手の甲を撫でる。

巽がくれるプレゼントは同じ名字で寄り添いながら生きていく幸せ。

そして、私が巽にプレゼントするのは、世界中のどこにでもこうして私の手をつかんで連れ回してもいいという権利だ。

世界中に巽の演奏を待っている人がたくさんいる。

その人たちのもとに、私を連れて行ってもいいという権利だ。

……これがプレゼントになるのかどうか甚だ疑問だけど、ま、いいか。

巽がどう言っても、私はついていくだけなのだから。




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