ようこそ!きつねや漢方へ。
出会い
「おはよ~」と所々から挨拶をする声が聞こえる。
あくびを噛締めながら私、美月凜(みづきりん)はいつもの通学路を歩いていた。
「ふぁ、っとと。レディたるものこんな所で大口は開けられないよね」
誰にも聞かれていない独り言をポツリと呟く。
「ふふふ、あくびは我慢しない方がいいですよ?」
「ふぇっ?!」
私はビックリして、その場で飛び跳ねてしまった。
「・・・おや?驚かせてしまいましたか・・・すみません」
「えっ!!いやいや大丈夫です!!」
そこにいたのは、しゅんとした表情で、店の前をほうきで掃いていた、黒い髪を一つに束ねた綺麗な和服の人だった。
声から推測するに、男の人のようだがその見た目は女の人と言われれば納得してしまうほど綺麗で、最初は「女優さんかな?」と思ってしまったほどだ。
その人が立っている場所の後ろには、大きくて綺麗な日本家屋の家と、木の温もりがある昔ながらなお店がちょっこんと急に現れたみたいに建っている。
「ふふふ、元気のいいお嬢さんですね?」
「…えーっと、あはは……」
ビクッとしてしまったことや恥ずかしい独り言を聞かれたせいで、相手の顔を直視できない。
でも、おかしいな?
ここは前まで古びた日本家屋でお店なんてなかったはずだ。木々は生い茂り、庭は荒れ放題。ましてや、こんな立派なお店なんて私の記憶にはあるはずもなかった。
私の思っている事が分かったのか、その人は話しだした。
「ふふ、今日開店のきつねや漢方ですよ。と言ってもまだ、何も宣伝してないからお嬢さんは知らないでしょうね」
「へぇ、漢方のお店なんですね・・・」
「はい、そうですよ。とてもよく効きますので」
「あっ・・・申し遅れました。わたしは…えっと、この店の店主で八重(やえ)と申します。以後お見知りおきを。」
「あっえっと、私は凜と言います!!!」
焦ってがばっとお辞儀をする。するとふふふ、と八重さんが笑った。
綺麗だなと、見とれてしまいそうになるが、ふと何か思い出したように店の奥へ引っ込んでしまった八重さん。すると店の中から声がする。
「……凜さんちょっと待っていてくださいね……えっと、これかな?…大丈夫だよね。うん。」
なにやら、がさごそとしながら戻ってきた八重さんの手に握られていたのは、何やら白い袋に入った物だった。
「……どうぞ、試供品です。冷え性に効く漢方ですよ」
「えっ……いいんですか?」
「はい。これを使ったら、お友達に効果をお話してくださいね?口コミに勝る宣伝はありませんから♪」
「あはは、なるほど。そういうことですか………分かりました!でもなんで冷え性のなんですか?」
「女の人は体を冷やすといけませんので、ね。それに、私が凜さんを驚かせてしまったお詫びですし宣伝なんて気にしなくていいですよ。ただの冗談ですしね?」
「いえいえ、口コミしますよ!」
と意気揚々に言う。そして、少しの雑談など世間話やこの町の歴史のことなどを話したりした。そしてふと、思った。
「あっ、今何時ですか?!」
と聞く。今日が日直だということを思い出した。遅れたら大変な事になるだろうなぁ。
すると八重さんは時計は見ずに太陽の位置を確認した。
「……えっと、今は卯の中刻、だから……多分、七時半過ぎ位だと思います。」
そう言うと、お店の方から「おーい、八重~?月(ユエ)?」と男の人の声がする。
「えっ……!!マジですか、あっ、八重さん誰か呼んでいますよ?」
「ふふ、凜さん時刻を聞いたとなればお急ぎでしょう?行かなくていいんですか?」
「あっ!!そうだ!!……えっと八重さん、またよってもいいですか?」
走り出す前に、振り向く。この店とは何やら縁を感じたからだ。
「ふふ、よろこんで。きっと家の子達とも仲良くなれるはずですよ。」
「………はい!それじゃ、また来ます!!」
「えぇ、いってらっしゃい。」
「えへへ、いってきます!」
そう言って私は学校へ急いだ。