千日紅の咲く庭で
縁側に座り込んだまま、私は手元に持っていた携帯電話で電話を掛けた。

わずかに震える手で、電話をかけた相手は美知おばさん、ではなく、岳だった。

昨日のキスのことなんて、庭が枯れていたショックで私の頭からは抜けてしまっていた。


「…もしもし」

数回のコールのあと、一瞬の沈黙した岳はきっと昨日のキスのことが気まずかったのだろう。
まぁ、そんな考えにたどり着いたのは随分先のことだったのだけど。


電話越しに聞こえてきた、いつもと変わらない気だるそうな岳の声。

岳のいつもと変わらない、その声を聞いたら、吹き出すように一気に涙が溢れてきた。

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