千日紅の咲く庭で
「うん。私、岳が好き」


数秒の沈黙を破るように私は小さく頷くと、自分の正直な気持ちを告白した。

ごめんね、東谷君。


東谷君に謝ろうと思って言葉が喉元まで出てきた時、東谷君は息を漏らすようにして、はははっと声に出して笑った。

「やっぱり、そうですよね」


あっけらかんとした雰囲気で東谷君が言葉を発したものだから、私は謝罪するタイミングをすっかり逃してしまった。

東谷君は、両手に包むように缶コーヒーを持ちながら、空を見上げるようにして下弦の月をぼんやりと眺める。

私も東谷君の視線の先にある下弦の月を見つけると、私もぼんやりとそれを眺める。

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