千日紅の咲く庭で
鍵はひんやりとしていて、私の熱を帯びた頬を一気に冷ました気がする。

「これ、返す」

そう言って私に手渡された鍵は、我が家の玄関のカギだった。

お母さんのお通夜があった夜、私が美知おばさんに万が一のためにと預かってもらっていた鍵。

いつの頃からか、というよりあの葬儀の終わった辺りから、当たり前のように岳が持つようになっていて、岳はこの鍵で私の家に自由に出入りしていた。


「どうして?」

なんだか急に岳に突き放された気分になってしまう。

こんなに近くにいるのに、岳の気持ちが手の届かないところにあるような気がしてならない。

そんな私の気持ちなんて、知ってか知らずか岳は私に白い歯を見せて笑った。


< 192 / 281 >

この作品をシェア

pagetop