千日紅の咲く庭で
「あいつ、えっと…、東谷って言ったっけ?あいつ、良い奴じゃん。俺がこんな鍵持って、花梨の近くウロウロしていたら邪魔だろ?…だから、鍵返す」

岳は小さく肩を揺らして笑って見せた。

その笑顔は、私の心の奥底に抉るような痛みを与える。
こんな時、やっぱり幼馴染って関係は辛い。

岳が、あんな笑顔を見せているっていうのに心から笑っていないことくらいすぐに分かってしまうのだから。

「じゃあな。おやすみ」


また、明日って言いあうことだって、次の約束をすることだって、いつものことですっかり当たり前になってしまっていたのに、今日はそれすらない。


岳は私に背中を向けたまま、片手をあげて、小さく手を振って歩き出す。


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