千日紅の咲く庭で
「ドライフラワーに比べたら、たいしたものじゃないけど」
照れ隠しにそんなことを言いながら岳の手のひらにそっと置いたのは、小さな鈴のついた鍵。


あの夜、大喧嘩して岳に鍵を返されたまま私がずっと持っていた我が家の鍵。


岳は渡したものが鍵だということを確認すると、嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとな」

「こちらこそ。岳、ありがとね」

岳に素直にお礼なんて言われてしまうと、いつもの調子がくるってなんだか妙にくすぐったい。

大事そうに鍵を自分のキーケースにしまい込んだ岳と、家までの道のりを歩く。

いつの間にか繋いでいた手は、指を絡めて繋がっていてお互いの体温が交じり合っている。


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