千日紅の咲く庭で
「なぁ、花梨。ちょっと庭に出てきて」

庭の方から岳が私を呼ぶ声が聞こえる。
私は縁側からスリッパを履いて、岳が呼んでいる庭の隅の方へと足を進めた。


「これ、見てみろよ」

岳は庭の片隅にしゃがみこんでいて、足元を指さす。

そこには季節外れに1輪だけ紫色の千日紅が咲いていた。
月の光を浴びながら、儚げに咲く千日紅に私は目を奪われた。


他の草花は枯れているというのに、どうしてこの季節外れの時期に咲いているのか不思議で堪らない。


岳もそれは同じようで、不思議なものを見るかのようにその一輪に目を奪われている様子だった。


「お母さんが、私たちのこと祝ってくれているみたいだね」

「そうだな」

ふと思ったことを言葉にしたら、岳は優しく微笑んでくれた。

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