intoxication
タンッと、煙草を灰皿に押しつけて立ち上がる一槻。

看取るって、え、わたし、末期前提?

髪を掻き乱して、カウンターの中に入った一槻は、冷蔵庫から卵を取り出してごぞごそ何かしだした。


ふぅーっと深く息を吐き出して、下を向いて作業をする一槻を見つめる。


「・・・何ぼぉっとしてんだよ。手伝わずに食うつもりかお前は」

「あ、はいっ」


昨日はケンカの後に、一番仲良しの舞を呼び出してお酒に付き合ってもらって、電車でこっちまで帰ってきた。

誰もいない家に帰る気になれなくて一槻のとこに来た。

そっからのことは覚えてなくて。


“はぁ・・・ったく、お前はまた。”


覚えてるのはそこまで。


「一槻」

「ん?」

「ありがと」


返事の代わりに、一槻は背中を向けた。

あたしは一人っ子だからお兄ちゃんがいる気持ちは分からないけれど、もし居るとしたらこんな気持ちかもしれない。

その背中を見てるとなんだかいつも、目を細めて微笑みたくなるの。


       *


「メール・・・あ、店長がランチ奢ってやるから出てこいだって。ラッキー」

「なに、大学休むんじゃねぇの」


即席のフレンチトーストをちゃっかり二日酔いの身体に詰め込んだ結衣がケータイを開いてそう言ったのは十時すぎのことだった。

今朝飯食ったとこなのにもう昼の話か、と、俺は食後のコーヒーをすする。


「まぁバイト先ならアイツに会うこともないし」

「もういいの」

「・・・いいや。面倒だし」


自嘲して視線を逸らすのは結衣の癖。

面倒だしと言うときは大抵面倒だとは思っていない。

ただもう一度向き合って、もう一度傷付けられるのを避けるため。

そのくせにあと一週間もすれば、『この人素敵でしょ!』なんて笑っているのだからこいつは馬鹿だ。

馬鹿で弱い。


「ね、シャワー借りていい?」

「ここ一応男んち」

「うん。大丈夫! あ、あとお願いが・・・」


お願い、と顔の前で手を合わせて俺を見つめる。

こんなことを言っている時点で、彼女の中で俺は父親か兄に似た位置付けなんだろうと思う。

じゃなきゃシャワーなんて浴びないだろ。

いつものようににらめっこをしてみるものの、


「・・・ティラミスとシュークリームで手を打とう」
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