intoxication
「・・・ティラミスとシュークリームで手を打とう」


いつも負けるのは俺だ。


「ありあとしたーっ。」


金曜日の午前九時にティラミスとシュークリームと女性物下着を買っていく男を、いつもいるあの店員はどう思っているんだろう、しかも一度ではなく何度も。


コンビニで買い物をして店に戻ると、店の中にまでシャンプーの匂いが漏れ出していた。

店兼我が家のこの建物。奥は俺の生活スペースだ。

昨日と同じ服で出歩いて、周りがなんと思うかなんて気にならないんだろうか。

多分、気にならないんだ。彼女はいつもそうで。


俺が知っている彼女は二年分しかないけれど、その期間で何人の男に泣かされただろう。

決まって振られるのは結衣。

結衣から嫌いになって別れた奴なんか居なかった。

裏切られるたびに、その男のために泣いて、酔っぱらって、また違う男に恋をする。

それをずっと繰り返しているのに、彼女は不思議と汚れない。

笑顔はいつでも無邪気で。

ここへ友達を連れてきたことは一度もないけれど、女友達もたくさん居るみたいだ。

どうしても、男運だけが着いてこないんだな。


「じろじろ見ないでよ、気持ち悪い」

「誰かお前を好き好んで見るかよ」


出ていく直前、俺が酒は飲むなと忠告すると、お父さんみたいと笑った。

俺の手首を掴んで引き寄せ、俺の持っていたシュークリームを一口かじると、行ってきますお父さんと楽しそうに手を振って出て行った。

からっぽになった店の中には、俺の溜息がいつまでも響いていた。
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