intoxication
「今日は奢りだから食べていいよ!」


土曜日の昼下がり、夏の日、快晴。

一番仲の良い友達が、あたしの失恋を癒すためにといつものカフェに誘ってくれた。

振られたのはもう一週間前の話だ。

バイトだ講習だなんだと中々舞は時間が取れなくて、ようやく今日連れてきてくれたのだ。

新しくオープンしたカフェらしく店内は女性客で埋まっていた。

手始めにと注文したティラミスを食べながら、木下舞が口を開く。


「結衣的にはもう解決?」

「んー・・・うん」

「まぁいつも結衣はそんな感じだもんね」


そうなのだ。あたしはいつもこんな感じだ。

自分が恋愛体質だということは分かってる。

だからって二人同時に好きになることなんてないし、好きな人が居ながら別の人を好きになるなんてこともない。

けど、どんな人を好きになっても、いつも絶対裏切られる。

今あいつがやり直そうと言ってきたら、あたしはやり直すかな。

ううんきっと、やり直さない。やり直せない。


「なんでこう、結衣には男運がないんだろう」

「う・・・それ、言わないで。もう散々言われてるから」

「誰に?」

「マスター」


ふぅん、と腑に落ちない様子で彼女は視線を落とした。

舞も含めて誰にも、一槻を会わせたことはなかった。

何度かそういう流れになったことはあるけれど、何かに理由を見つけては違うところで飲んだ。

会わせたくないんだと、自覚し始めたのは最近だ。

手元のティラミスがじっとあたしを見つめているような気がして、思い切りスプーンを刺した。


「その“マスター”はさ、いくつなの」

「え?」

「だってずいぶん親しそうじゃない。あたしは結衣にとって特別な人みたいに思ってたけど」


ティラミスを食べ終えた彼女の手元にはショートケーキの皿が置かれた。

ぱっと晴れない気持ちをかき消したくて、自分の残りを詰め込む。


「33だよ、独身」

「いいじゃん年上男」

「けど―――」

「けど?」

「一槻には多分、好きな人が居るから」
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