魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
今朝は確かに、てんやわんやだった。
キッチンの隅を貸してもらって作業していたけれど、森田さんに揶揄われるしコック長には怒鳴られるし、いつもより騒がしい朝だった記憶はある。
「申し訳ございません……起こしてしまったのですね」
自身の失態に頭を抱えつつ、でも、と言い募る。
「私が勝手に作っただけですので、蓮様が気にされることはないです! ですので、本当にご無理は……」
「僕が好きなの、卵サンドなんだけど?」
「え?」
「一番定番でしょ。こんなにあって何でないわけ。次からは卵だけでいい」
「え、と……」
怒られた? ううん、違う。だって、瞳は優しいままだ。
蓮様の好きなものをまた一つ、知ることができた。それに、「次からは」って。
「蓮様」
「なに」
サンドイッチを咀嚼し苦々しく顔を歪める彼に、どうしようもなく嬉しくなってしまう。
「蓮様は、お優しいですね」
今まで見えていなかった分、見えた途端に得した気分だ。胸の奥がぽかぽかして、日陰にいるはずなのに、私だけ日なたに出てしまったのかな、なんて、呑気なことを思った。