魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
執事、という単語に、意図せずぎくりと反応してしまう。
さすが御曹司だ。車移動は当たり前、といったところだろうか。普段蓮様と登校する際は徒歩だから、すっかりその概念が抜け落ちていた。
「どうぞ。お嬢様」
車の前まで来たところで、椿様がドアを開ける。
久方ぶりに受けたエスコートはむず痒くて、苦笑いしてしまった。会釈をして、「失礼します」と車に乗り込む。
二か月前までは「お嬢様」と普通に呼ばれていたけれど、今となっては気恥ずかしい。
ワンピースの裾をぎゅっと掴んで視線をさ迷わせていると、蓮様が隣のシートに腰を下ろした。椿様は一つ前のシートだったので、ほっと胸を撫で下ろす。
「あの、椿様……本日はどちらへ?」
「うちが所有してるホテルのレストラン。シェフが来月から新メニュー出すっていうから、二人にもちょっと意見もらいたいなと思って」
なるほどそれでか、と合点がいった。それと同時、もう少しフォーマルな服装にしてくれば良かった、と後悔の念に駆られる。
と、不意に蓮様がこちらへ身を寄せたかと思えば、耳元で囁いてきた。
「大丈夫?」
「ひゃっ……え、な、何がですか?」
「こら。声大きい」