魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


皮肉じみた返事をして、椿様が片手を挙げた。
彼の敷地内だからというのもあるのかもしれないけれど、学校で見る椿様とは少し雰囲気が異なっていて戸惑う。

案内されたのは、大きな窓から景色を堪能できるテーブルだった。通常は夜景を楽しむものなのだろう。
以前、一度だけこういうお店で食事を取ったことがあった。恥をかかないようにと、テーブルマナーはかなり厳しく仕込まれている。

先程の男性が椅子を引いたので、左側からすっと腰を下ろし、お礼を述べた。
背筋は椅子の座面に対し、直角に。深めに掛けて、背もたれには寄りかからない。


「苦手な食材や食べられないものはございますか?」


今まで幾度となく聞かれてきた質問である。
大丈夫です、と答えようとして思いとどまった。確か、蓮様の苦手なものは――


「林檎を外していただけますか」


私がそう言うと、椿様と蓮様の視線が刺さる。
蓮様の苦手なものは林檎だったはず。五宮家の料理で使われているのは見たことがないし、私が前にアップルパイを焼いた時、彼は一切手を付けなかった。


「かしこまりました。そちらの方は?」

「……私は大丈夫です」

< 148 / 350 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop