魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
コックコートの背中を見送り、さて今度こそ戻ろう、と踵を返す。
厨房の近くであるここからは死角でテーブルの様子が見えない。
椿様と「レイちゃん」を二人きりにして大丈夫だっただろうか。今更ながらに不安になったけれど、深堀りされたとしても蓮様ならきっと上手く切り抜けるだろうな、と思い直した。
「それにしても、百合ちゃんが林檎食べられないなんて残念だな。そのために誘ったのに」
あと数歩で死角から抜け出せるといったところで、椿様の声が聞こえて思わず足を止める。
そのために誘った、とは……? 私が林檎を食べる必要性があったということだろうか。
蓮様の答える声はない。今日特に口数が少ないのは、椿様にバレないようにするためだろう。
「俺の友達にも、林檎が苦手っていう人がいるんだよね。最初は彼を誘おうと思ったんだけど、シェフに聞いたら林檎のデザートだっていうからさ。百合ちゃんなら大丈夫かと思ったんだけど」
それはもしかしなくても、蓮様のことなのでは。というかそれ以外に考えられない。
なるほど。椿様は別段私と出掛けたかった訳ではなく、ただ単に蓮様の代理として遣わされたということだ。
「レイちゃんには是非食べてもらって、感想聞かせて欲しいな。よろしくね」