魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


声色だけでも分かる。きっと椿様は今、人当たりの良い笑みでお話しているに違いない。

新作がどうとか、確かに車の中で仰っていた。感想が求められるのも自然なことだ。でも蓮様は林檎を口にしないのだから、具体的なコメントは難しいかもしれない。
そこまで頭が回らなかったな、どうしよう、と地面を見つめていると。


「レイちゃんってさ、お嬢様だったりするのかな」

「……いえ」

「へえ、その割には所作が綺麗だよね。テーブルマナーが完璧なんだよなあ」


進んでいく会話。完全に戻るタイミングを見失ってしまった。
さすがにそろそろ戻らなければ間がもたないかもしれない。陰から僅かに顔を出し、二人の姿を見守る。


「ああ、でもエスコートされ慣れてないよね。ヒールも、スカートも。履き慣れてないんだろうなって」


そう続けた椿様は、次の瞬間、声を低めて告げた。


「――ねえ、そうでしょ? 蓮」


疑問じゃない、確信だ。彼の口調には、それが滲み出ていた。

うそ。思わず口の中で呟いてしまう。
擬態は完璧だと信じて疑っていなかった。このまま滞りなく終えられるものだと錯覚していたのだ。


「……いつから?」

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