魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


氷柱で心臓を貫かれたような感覚だった。全身の血が凍てつくような、底冷えした台詞。
でも、それより何より――蓮様の瞳が揺れて、彼の心にひびが入ったのが分かった。


『気持ち悪いでしょ、こんな趣味』

『おかしいんだよ。男が、シンデレラになれるわけないんだから』

『僕に魔法をかけて』


解けない。絶対に、魔法は解けない。
だって、私が何度だってかけ続ける。そう決めた。あの日、綺麗な私だけのシンデレラを見つけて、心から誓ったんだ。

――ぱん、と小気味いい音が響いて、我に返った。

目の前には目を見開く椿様。風を切った自身の右手は、じんじん痛む。
顔が、頭が、心臓が熱い。そうさせているのは高揚感などではなく、怒りのせいだと気が付いた時、ようやく自分が彼の頬を引っ叩いたのだと理解した。


「いまご自分で何を仰ったか、お分かりですか」


喉から絞り出した声は存外落ち着いていて、そのことに恐怖を覚える。否――私も今この時、彼を見切って侮蔑していたのかもしれない。


「一ご令嗣としても、一友人としても、決して相応しいお言葉ではありません。非常に残念です。悲しいです。……椿様は、そこの分別ができる方だと思っておりました」

< 157 / 350 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop