魔法をかけて、僕のシークレット・リリー
悲しいだなんて、そんな優しい単語で取り繕ったけれど、本当は物凄く腹が立っていた。
悪気なく放たれた差別発言ではない。述べる直前、明確に人を傷つけようと傾いた彼の顔が脳にこびりついて離れなかった。
どうして、そんな言い方をするのだろう。少し考えれば――考えなくとも、分かるはずだ。下手すると今まで築いてきた絆が崩れ去ってしまうような、爆弾であることが。
自分の呼吸音だけが耳に残った。嫌な沈黙が落ちて、それに一切罪悪感を抱かないくらいには、頭に血が上っていたのだと思う。
「……蓮様。帰りましょう」
呆気に取られている主人に声を掛けるも、反応がない。無礼を承知でその腕を引っ張り、やや強引に立たせる。
途中、甘い匂いが漂う空気をすり抜けた。まるで林檎のパフュームのようで、今はただただ場違いだ。
椿様の近くに立った際も、そういえば甘い香りが鼻を掠めた気がする。以前嗅いだ、チェリーのコロンだろうか。
『だって蓮には桜がいるんだから、百合ちゃんがどうしようと関係ないよね』
もやもやと募っていく感情。その正体が何なのかを考えるには、余裕がなさすぎた。