魔法をかけて、僕のシークレット・リリー



帰りましょう。そう言ったものの、足取りは重かった。

ホテルから出たところで、突然蓮様が立ち止まる。彼の腕を引きながら先行して歩いていた私は、必然的に後ろへよろけた。

振り返ろうとした時、蓮様が自身の腕を引き抜き、それから――そっと、私の手を握る。


「蓮様……?」


彼は俯いていたため表情こそよく見えなかったけれど、何か言いたげだった。それも、まず家に帰って、きちんとお話しましょう、とも言い難い雰囲気だ。

迷いに迷って、ここからさほど遠くないカフェに入ることにし、彼と並んで歩いた。
その間、手は繋がれたままで。自分から離すのも憚られ、何とも不思議な気持ちにならざるを得なかった。


「手、大丈夫?」


口を開いては閉じ、また言いかけてやめ……を繰り返し、長い沈黙の後に蓮様が問う。


「えっ、わ、私はそんな! 蓮様こそ……その、」


適切な言葉は見つからなかった。大丈夫ですか、としか聞きようがないけれど、どうにも浅はかだ。

また空白が訪れる。アイスティーを一口含んで、彼が目を伏せた。
そして、気が抜けたように笑みを零す。


「君さ、御曹司の顔引っ叩くとか……ご自分で何をされたか、お分かりなの」

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