魔法をかけて、僕のシークレット・リリー


投げやりな口調が彼らしくない。
私の話を遮り、蓮様は視線を寄越してくる。その瞳が、哀しげに揺れた。


「君は、僕と桜に結婚して欲しいの?」


なんて――なんて残酷なことを言うんだろう、彼は。それを聞かれて、私がどう答えると思っているの。たった一つの、決まりきった答えしかないのに。


「当たり前じゃないですか……!」


して欲しくないに決まってる。心の中ではもうずっと、そう叫んでる。
言えない。言えっこない。受け止められもしないのに、簡単に暴こうとしないで。


「お二人の結婚は、五宮家全員が望んでいることです。桜様だって、ずっとずっと蓮様のことを大切に思っておられるのですよ」


とんだ茶番だ。本当に、笑えてくる。どんどん自分の首を絞めて、このまま死んでしまうんじゃないだろうか。
ちゃんちゃら可笑しいはずなのに、口角は上がるどころか下がっていった。喉の奥から熱いものがせり上げてきて、息が苦しい。視界が滲む。


「私は、蓮様の……あなたの幸せを、誰よりも願っております」


お願い。泣くほど切実に祈っていると、どうか勘違いして欲しい。


「…………そう」


掠れた相槌が落ちる。その表情は見えない。
ドアの開閉音がして、彼が部屋を出て行ったのが分かった。

鼻が詰まっているせいかシトラスの匂いはしない。
彼の瞳の中の海が、凪いでいますように。今はそう願う他、どうしようもなかった。

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