マザー症候群


 後日。
 美波は、ひとり自分の部屋のベッドに座りながらアルコールを舐めていた。そして、冴えない頭で、考えていた。 どう、游と別れるべきか。
 游の彼女がナイフで自分の腕を切った時。

 今が潮時か。

 ふっと、こんなフレーズが美波の頭をよぎった。そのフレーズは、なぜか、いつまでも記憶の底に残っている。
 広告代理店の部長の職を解雇され、酒に溺れているごみのような安っぽい女。それが、今の美波である。
 そんな女が、純粋に一人の青年を思う若い女を相手にして。バトルを繰り広げる事が出来るだろうか。
 答えはノーである。
 今の美波には、そんな闘争心も、性欲も、気力も無かった。
 酒があれば。それだけでいい。それだけで満足だった。他のものは、今の美波にとってみんな面倒臭かった。
 波斗のことも、游のことだって。

 問題は、游とどんな別れ方をするか、だ。
 格好良く別れるか。そんな気分じゃない。
 普通に別れるか。面白くない。
 自分をさらけ出して別れるか。これだ!これしかない。
 180度発想の転換。ぼろぼろの最低の女を正直に游に見せる。これが美波の游に対する最後の愛の表現だった。


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