祓魔師陛下と銀髪紫眼の娘―甘く飼い慣らされる日々の先に―
「お前の前でくらい、“国王陛下”じゃなくてもかまわないだろ」

 無造作に散った髪を振り払うようにして、ぶっきらぼうにヴィルヘルムは告げた。それが、あまりにも素のように思えてリラはつい口をぼかんと開けてしまう。王はそんなリラを一瞥した。

「命令すればなんでも手に入るようで、本当はなにも手に入らない。なんでも思い通りになるように思えて、本当はなにも思い通りにはいかない。虚しいものだな、自分が王になりたいとけっして望んだわけでもないのに」

 顔を歪ませて自嘲的に続ける王にリラは胸が締めつけられた。そして少しだけ、ヴィルヘルムの気持ちが理解できた。

『……私の周りには、そんなことを許してくれる大人はいなかったけどな』

 昼間のヴィルヘルムの発言を思い出す。国王であることを望まれる限り、それは絶対的な存在で、誰かと対等になることはできない。自分という人間を常に抑えて、国王であることを意識しなくてはならない。

 リラもこの外見のせいで嫌というほどの孤独を味わってきた。けっして自分が望んだわけでもないのに、ただ「違う」というだけで距離を置かれ、ときには畏怖の対象にされる。さっきみたいに。

 この人も孤独なんだ。

 リラは投げ出されていたヴィルヘルムの手をそっと握った。自分は、彼のそばにずっといることはできない。本当はそばにいない方がいいのかもしれない。王の一番になる日なんて絶対に訪れない。それでも――
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