高貴なる社長のストレートすぎる恋愛に辟易しています。
さっきまでビジネスモードでキリッとした顔つきを保ったまま商談していた時頼さんが、今度はわたしに向かって気持ちをなだめようと必死になっている。

今まで何人の女性にむけて可愛らしい姿をみせていたんだろう。

あの初日に会ったブランドバッグをぶつけた女にもみせていたんだろうか。

ぼんやりと夢うつつで時頼さんをみているとふてくされていたらしく、

「なんだよ、笑うことねえだろ。ここのシフォンケーキ、美味しいんだ」

「そうなんですか、なんか可愛いなって思えて」

「可愛いってなんだよ」

と、時頼さんは少し顔を赤らめ照れている。

こういう息抜きを時頼さんはしていたんだな、と思っていたところで注文していたカフェセットが到着する。

アイスコーヒーは自家焙煎をしていてとてもコクがあっておいしいし、シフォンケーキも毎日お店で焼いているもので紅茶の風味が口いっぱいに広がる。

「な? うまいだろ?」

「は、はい」

そういうと、あんなに不機嫌だった時頼さんの目が輝きだした。

「ようやくこの味を共感できるやつに巡り会えたわ」

「えっ」

「……独り言だ。食え」

そういいつつも、ニコニコしながらシフォンケーキを頬張る時頼さんの無邪気な姿になんだかくすぐったい気持ちになった。
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