高貴なる社長のストレートすぎる恋愛に辟易しています。
「彼女に洋服見繕ってくれないか」

「ちょ、ちょっと」

「お前は昨日と今日で地味さがよくわかる。もうちょっと明るい服着ろよ」

「……時頼さん」

「それじゃあ会社に戻れねえからな」

と、店長さんに連れられ、奥の試着室で渡されたのは、七分袖の両袖にリボンのついた白いブラウスにフラワーをモチーフにした総レースのピンク色の膝丈フレアスカートだった。

着替えてみると大きな鏡に映し出された自分が別人にみえる。

試着室から出ると、すでに女性店長さんとともに、時頼さんが腕組みをして立って待っていた。

「あの、これ」

「似合ってる。馬子にも衣装っていいたいところだけどな」

ニヤニヤと笑っているけれど、いつもならもう少しきつめな口調なのに、なぜだかやわらかな言い方だった。

着ていた洋服をショップの紙袋に入れてもらって時頼さんが先に店を出ようとした。

「この服、買います」

「気にすんな。もう会計は済ませた。俺からのお詫びだ」

と、わたしの両手にある荷物をひょいと軽々と手にとる。

「あ、あの」

「きれいな服、見せびらかせてやれ」

「で、でも」

「俺の命令だ」

そういって時頼さんはわたしの前をずんずんと歩きはじめた。

会社に帰る道なのに、まるで喧嘩してすぐに仲直りしたデートの帰りのような、なんだか不思議な気持ちだ。
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