高貴なる社長のストレートすぎる恋愛に辟易しています。
複雑な気持ちのまま会社に戻る。藤崎社長はわたしをみるなり目を丸くし、それからすぐにニコっと微笑んでくれた。

「おかえりなさい。つむぎさん、素敵な服ですね」

「俺が選んだの」

ありがとうございます、と言おうとしたところ、すぐに時頼さんが自分を指差し、わたしと藤崎社長の間に割り込むように話し出した。

「どうせ店長のセレクトなんだろう」

ふっ、と軽く鼻で藤崎社長が笑うと、時頼さんは不機嫌そうにむすっと口をへの字に曲げ、ちろりと舌を出した。

「バレたか。でもこれで会社も華やかになったんだ。少しは会社に貢献したろ」

「さあ。貢献もなにも、初日からすでに貢献してますからね、つむぎさんは」

と、さりげなく流し目で藤崎社長はわたしをみる。

そうだ。契約彼女という明言はまだ有効だった。

「えっ」

ドキドキと急に鼓動が早くなる。

そんな藤崎社長へのややこしい気持ちを知ってか知らずか、時頼さんは貢献か、とぽつりとつぶやいた。

「さあ、仕事仕事」

と、何事もなかったように藤崎社長が声をあげると、時頼さんも机に向かい仕事をはじめていた。

からかわれているのはわかっている。

けれど、洋服のおかげなのか、少しだけ会社の一員になれたのかな、という得体の知れない自信がわいてきた。
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