高貴なる社長のストレートすぎる恋愛に辟易しています。
ちらちらと二人の視線を感じながら仕事をしていたが、途中、時宗さんが新しい案件の相談があると営業先から連絡があり、そのまま会社を飛び出していった。

シンとしずまる事務所にはもちろん、藤崎社長とわたしだけだ。

メガネの奥から無言のまま、じっとこちらを見据えつつ仕事をする藤崎社長にドキっとしながらも目の前に与えられた仕事をこなしていた。

やがて終業時間が過ぎ、仕事を終えようと片付けていると、

「洋服によっては人を変えるんですね。もともと素敵なつむぎさんが別のつむぎさんのようだ」

ニコリと笑いながら藤崎社長はわたしに話しかける。

「そ、そうですか」

こんなおしゃれなお店で洋服なんて買ったことも着たこともないからよくわからないけど、中身はそのままなのにそれだけで変わってみえるのかな。

「しかし他人に変えられるのは心外ですね。僕が変えようとしているところなのに」

少しだけ怒っているのか、口調が強い。それでも笑顔はそのままだ。

「あ、あの、似合ってなかったですか、これ」

「ええ」

やっぱりか、と肩を落としていると、

「僕だったらそうですね、こんな感じにしますけどね」

と、パソコン画面から手足が長く、美人なお姉さんたちの画像を出す。

しかもどれも肌の露出が高い。シースルーのベビードールをまとった女性たちだった。

「これって」

「冗談ですよ、冗談。ここもウチの取引先の会社でしてね」

と、有名な通販専門の下着メーカーのホームページを扱っていることを教えてくれた。

センスのいいお店ですからね、今着ている洋服は、つむぎさんの体にぴったりですよ」

まったく冗談がすぎる藤崎社長ったら、と思いつつカバンを持ち、帰ろうとしていた。

「きれいな包み紙は丁寧に剥ぎ取りたくなりますね」

と、大きな声で藤崎社長は言い放つ。

「変わっていくつむぎさんを早くみたいものですね」

後ろからまた釘をさすようにドキっとする冗談を投げつけてきてくれたけれど、笑いながらお先に失礼します、とつぶやいて会社をあとにした。
< 37 / 122 >

この作品をシェア

pagetop