高貴なる社長のストレートすぎる恋愛に辟易しています。
ホテルのロビーに停車してあったタクシーをみつけると、藤崎社長がどうぞ、と先に乗せてくれた。

行き先を藤崎社長が先にいう前に、わたしから自宅のマンション近くまでと告げた。

会社のビルのある通りを通過して、自宅マンションから降りて藤崎社長と並んで歩く。

「あの……」

「僕のウチまでというんじゃないかと思ったんでしょう」

「……え、あの」

「僕のウチにきてもいいんですよ。今夜、いくらでも付き合いますよ」

どうしてそんなさらりとした言い方で言えるかな、と心がムズムズする。

「たくさん飲みましたね。風が心地いい。こうやって並んで歩いているだけでうれしいですよ、つむぎさん」

湿度がなくなり、だいぶ夏に近づいてきたのか、夜なのに蒸し暑さを感じる。

「もう、この辺でいいです」

横断歩道の信号は赤になっていた。

道路を挟んだ向こう側の歩道からどこかで見覚えのあるスーツ姿の男性をみつける。由基だ。

「あ、つむぎ」

と、由基はびっくりした表情を浮かべている。

隣には知らない女が、誰、つむぎって、と不満そうにつぶやく声がした。

こっちがあんた誰とわたしが先に言おうとした。

そのとき、藤崎社長の腕がわたしの肩にふれ、すっと唇が重なった。

あまりにも無防備すぎてどうしていいかわからない。

それよりも由基にはない、スマートで吸い込まれるようなあたたかでやさしいキスだった。

あっけにとられていると、行くぞ、と女とともに踵を返していってしまった。

「しゃ、社長……」

青白く街灯に照らされた藤崎社長はかすかに笑っている。

「さあ。帰りましょうね、つむぎさん」

青になり、藤崎社長は力強くわたしの手をとって横断歩道を渡った。
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