あなたに捧げる不機嫌な口付け

好きって言って。

祐里恵を取り戻してから、前にも増して言葉を選ぶようになった。


大事だとか好きだとかを態度でも言葉でも示す。


そうしないと離れていってしまうんだって、身に染みて知ったから。


ただの都合のいい女なんて位置に祐里恵を置くわけにはいかない。

そんな馬鹿な真似はしたくない。


祐里恵は祐里恵だ。


そんな曖昧なものになってくれるほど、祐里恵は優しくない。


そんな甘い考えで繋ぎとめておけるほど、祐里恵は俺を好きじゃない。


そんな悠長なことをしていたら、いつの間にか、俺は置き去りだ。


……そう、好きじゃないのだ。


今は好きだって思ってくれていても、何かささいなきっかけがあればすぐに嫌われるのは明白だ。

可能な限り言動に注意しておくべきだろう。


頼むから、と。

お願いだから離れて行くなと。


俺なりに頼んで、示して、それでも離れて行った。


己の矜持を守るために、この関係に区切りをつけるために、俺の側から離れて行った。


俺のことが少しでも好きなら大丈夫だろう、なんて甘える俺に、ずるずると引きずり続けたかった馬鹿な俺に、祐里恵は何も容赦なんかしてくれなかった。
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