あなたに捧げる不機嫌な口付け
付き合ってなんて言わなくても、きっとちゃんと付き合っているんだと思う。


好きだとお互い言ったから、それでいいのだと思う。


好きだと言えば、彼氏になると言った。


でも。


やっぱり確約が欲しくて。

だって、口約束のままじゃ、あの曖昧な関係みたいで。


……うん。多分俺は怖いんだ。


また曖昧になって、口約束だからって流されて、終わりになってしまうのが怖いんだ。


「ねえ、祐里恵」


それなら、まずは目印を、目に見える形で一つ作ろう。


「『さん』って外してくれたりする?」

「え?」


祐里恵がぽかんとこちらを見上げた。


「……ごめん、違うって分かってるんだけど」


慎重に言葉を選ぶ。


祐里恵を疑ってるわけじゃない。


この呼び名に親しみを込めてくれているって、ちゃんと知っている。


でも、せっかくの呼び名なら、親しみ以上が込もったら、呼ばれる度にもっと嬉しいと思う。


「分かってるんだけど、でもほら、恭介さんの『さん』は線引きだったから。この関係では『さん』は外さないって、あのときの祐里恵は言ったから」


だから、外れたりしないかなって思って。


なるべく冷静に冷静にと唱えながら言うと、祐里恵がくしゃりと顔を崩した。
< 228 / 276 >

この作品をシェア

pagetop