好きだなんて言ってあげない


矢口やその仲間にバレないように首を伸ばして見ると、専務が飲み物を頭からかけられて無言でいた。

肩先まで濡れて冷たそうだ。

「どうぞこちらでお着替えを」と専務が腕を取られてスタッフルームの方に引っ張られて行った。

矢口とその向かい側に座っていた女の子がテーブルを甲斐甲斐しく拭くものの、濡れた専務には興味もないのか一瞥しただけだ。

専務は弁護士じゃないし、自分の守備範囲外ということらしい。

一体あの男、自分の職業をなんて言ったんだろう。矢口があそこまで興味を持たないとは。

まあ、外見もおよそスタイリッシュからはかけ離れていたけれど。

暫くの間、専務抜きで矢口たちが時折高い声で笑いながら話している。

「・・・・・杉浦さん」

ワインをちびちびと飲んでいるわたしを山岸が呼び、わたしの背後を指さした。


おそらくはハイブランドのものであろう、紺のスーツ、無造作のようでいてキッチリと計算してセットされた髪、薄いブルーのシャツに複雑な色味の縞模様のネクタイ。焦げ茶色の靴は爪先までピカピカに磨かれている。
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