素直の向こうがわ【after story】



でも――。


約束の時間を30分過ぎても徹は現れなかった。

料理を何も注文せずに待っていたけれど、そろそろ店員さんの視線が突き刺さる。

もう10分待とう。

そう思って、もう何度目になるのかグラスの水を口にした。


それから30分――。


徹からは何の連絡もない。

おそらく、急患か容態の急変か。
それなら私に連絡なんてしている場合じゃない。


せっかく入ったお店だから、私は夕飯を食べて帰ることにした。


多分、美味しい。
だけどやっぱり一人で食べる夕食は味気なくて。
きっとこれからもこんなことは何度もある。

だからこそ、分かることもある。


この寂しさに引きかえても、徹がいい。


その想いを改めてかみしめる。

会いたい時に会えなくても――。



夕食を終えて店を出た。
空には星が煌いてる。

何度も心の中で唱えたプロポーズの言葉をもう一度心の中で繰り返した。


秋の夜はどこか寂しさを呼び起こす。
一人の身体に少しずつ冷たくなった風が吹き付ける。


その時、スマホが振動しているのに気付いた。


(俺だ。ごめん、本当にごめん。今どこだ?)


私が声を発する前に徹の息を切らした声が飛び込んで来た。


「あ、えっと、駅前の並木通りだけど……」


(今から行くから。そこで待ってろ。すぐに行くから)


それだけ告げると、すぐに切られた。


並木通りってだけで分かるのかな。
なんで遅くなったのかも言わずに、どれだけ慌ててるんだろ。


一人クスッと笑ってしまい、すぐに表情を引き締める。

並木通りの街路樹に背を預けて徹を待つ。



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