素直の向こうがわ【after story】
「文子……!」
どれだけ走って来たのだろう。
10分と経たないうちに徹が来た。
髪はボサボサに乱れていた。
「早いね。病院から走って来たの?」
「早くなんかないだろ? 今、何時だと思ってるんだ」
困ったように表情を歪めて徹が私の傍へと近付いて来る。
「えっと、ああ、もう10時だ。ご飯、食べちゃったよ――」
私が笑って言うと、その腕に引き寄せられていた。
「ごめん。一人で待たせて。連絡もしなくて。本当にごめん」
私たちの横を通り過ぎて行く人のことなんて目に入らないかのように強く掻き抱く。
「患者さんでしょ? 大丈夫。分かってる。でも、一人のご飯は確かに寂しかったかな」
「うん。ごめん」
こうやって、素直に気持ちを伝える。
これも徹との約束。
「でも、来てくれたから」
会いたい時に会えなくても、こうやって私のもとに来てくれれば――。
「こうやって待たせてしまう。おまえが傍にいてほしいと思う時に傍にいてやれない時もあると思う。でも、俺が帰って来る場所はおまえだけだから。必ずおまえの元に戻るから。だから――」
あ、これってもしかして!?
また徹に言われてしまうかもとそう思ったら、もう叫んでしまっていた。
「徹を支える良き妻になれるよう努力します! だから私と結婚してください!」
い、言えた。
練習通り。