素直の向こうがわ【after story】
なのに――。
「ちょっと、今のなんだよ」
私を強く抱きしめながら、私の首筋に顔を埋めながら徹が笑ってる。
「わ、笑うなんて酷い! これでも一生懸命考えた言葉なのに! ちょっと聞いてるの?」
人の一世一代のプロポーズを笑うなんて。
私は腹が立って徹の胸を強く押した。
でも、強く抱きしめられていて徹の顔を見ることも出来ない。
「徹っ!」
「ごめん。今の俺の顔は見せられない」
ぎゅっと私の腰を背を締め付けて来る。
「……文子」
息を止めるようにして、そして吐き出すように囁かれた。
そして、ゆっくりと身体を離された。
「俺の奥さんになってください」
眼鏡の奥の目に涙が滲んでいるのに気付いた。
笑ってたんじゃなくて、泣いて――?
「……はい」
「一生おまえだけを愛し続ける。俺の心は全部おまえに捧げるよ」
またすぐに抱き締められてその目をそれ以上見ていられなかった。
でも、あれは確かに涙だった。
「……愛してる」
初めてもらった言葉。
胸にじんわりと広がって行く。
「私も、愛してます」
――二人で生きて行こう。
徹の言葉を胸に大切に抱く。