素直の向こうがわ【after story】
良く晴れた日の午後の我が家のリビング。
私の隣には、珍しい徹が座っている。
そう、徹がこんなに緊張している姿って、考えてみればあまり見たことないかも。
いつも冷静だし、あんまり取り乱したりもしないし。
「河野徹と申します。長い間文子さんとお付き合いさせていただいておりましたが、ご挨拶が出来ずにいて申し訳ありません」
深々と頭を下げる徹を、なんだか第三者の立場で見てしまう。
「いやいや。私も仕事ばかりでほとんど家にいないからね。そんなに固くならずに、楽にして」
いつも小難しい顔をしている父親が、何故だか上機嫌だ。
普通は、娘の付き合っている男が来たらもう少し厳しい目になったりするのかと思っていた。
まあ、放任されてきたのだからこんなところだけ突然、父親面されても困るけど。
「徹君は、もしや、文子の高校時代からの?」
私は、徹と8年も付き合って来たけど、徹のことを父親に話したことはない。
今回初めて徹のことを伝えたのだ。
それなのにそんなことを突然言い出した父親に驚く。
「なんで、そんなこと……」
「徹君も医者なんだろう? だったら、確かあの高校三年の卒業の頃だったか、クラスメイトで医者になりたいっていう人がいるって、大切な人だって言っていただろ」
まさかそんなことを覚えているなんて思わなかった。
でも、あんな風に父親と話したことなんて後にも先にもあの時だけだから、印象に残っているのかもしれない。
徹が医大に落ちて、どうしようもないほど落ち込んだ私の背中を父親が押してくれた。
徹は思い出したように私の顔を見た。