素直の向こうがわ【after story】
「僕も医者という仕事をしている以上、文子さんには寂しい思いや我慢をさせることになると思います。でも、それでも彼女にそばにいてほしいと思いました。僕も人生をかけて彼女を幸せにします。どうか、文子さんとの結婚をお許しください」
徹がもう一度深く頭を下げる。
「徹との結婚を認めてください」
私も一緒に頭を下げた。
「徹君、文子をよろしく頼むよ。ふつつかな娘だけれど、根は頑張り屋だ。辛くても乗り越えられる子だと思う。文子、しっかり徹君を支えて、そして幸せになりなさい」
父親の穏やかな声が降って来た。
「ありがとうございます。文子さんは僕にはもったいないくらいの女性です。一生大事にします」
徹がこの日初めて笑顔になった。
そんなことをきっぱりと言う徹に照れてしまう気持ちと、嬉しい気持ちが半々で。
私たち、本当に夫婦になるんだなって実感すると、少し目が潤みそうになった。
この人に付いて行く、この人と一緒に生きて行くんだって、今まで以上に心に沁み渡って行く。
それからは、お祝いだと言って徹は散々父親に絡まれていた。
医者としてはどうあるべきだ、とか、今の医学は、とか、同業の息子が出来て父親が一番嬉しそうだった。
「文子、きっと母さんも喜ぶだろう」
「うん」
徹との出会いで、父親に対しても、そして私を母親に対しても、わだかまりが少しずつ薄らいだ。
そして、徹という存在が私たち親子をこんなにも穏やかな関係にしてくれたんだ。
父親に絡まれて、それでいてそれも嬉しそうな徹の横顔を見つめた。
徹、ありがとう。
そして、これからもよろしくね――。
そう、心の中で呟いた。