素直の向こうがわ【after story】
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「文子さん、徹はまた仕事?」
梅雨だというのにこの日のためかのように晴れ渡った青い空。
東京都内の某結婚式場の親族控室で、徹のお母さんが呆れたように溜息をついた。
「すみません。朝は一緒に来るつもりで準備していたんですけど、病院から呼び出しがかかってしまいまして……」
徹が担当している患者さんの何かの数値が少し上がっているか何かで、とりあえず様子を見てほしいという連絡だった。
もちろん今日のためにかなり前からこの日の休みを申請してあった。
でも、そんなこちらの事情なんて患者さんの状況とは関係ない。
それが医者という仕事だ。
それに、徹は自分が担当したからには最後までちゃんと責任を持ちたいと強く思っている。
なるべく人任せにせずに自分で見る。
それが患者さんを安心させてあげられる何よりのことだと思っているのだ。
「いつもいつもそんな調子だけど、弟の結婚式までこうとはね。まあ、お医者さんなんだもの、仕方ないか」
そんな徹のことは、お母さんだって本当は何より理解しているのだ。
「でも、本当に文子さんには苦労かけてるわね。徹は仕事ばかりでほとんど家にいられないみたいだし。文句も言わずに家庭を守って子供を育てて、あなたには感謝してもしきれない」
突然、真顔でそんなことを言われて思わず恐縮する。