騎士団長殿下の愛した花
レイオウルは雰囲気を変えるように態とらしく苦笑した。
「ずっと会ってくれなかったのに、どうして今更会ってくれる気に?」
「……それは」
「……ごめん、そんなことどうでもいいよね」
非難がましい口調を一瞬で吐息に変えて彼はフェリチタを手招きした。
その優しさに乗ってしまうのは甘えだとわかっていたけれど我慢できたのはほんの一瞬で、すぐに彼の胸の中に飛び込む。
腕を回され、きつく抱き締められる。フェリチタも負けじと強く抱き締め返した。
レイオウルの吐息がフェリチタの髪を僅かに震わせる。
「……来てくれなかったらどうしようかって思った」
「ごめん」
「このまま、会えないまま行くのかって」
「ごめん」
「もう名前を呼べないのかって」
「……ごめん」
「フェリチタ……はは、僕……みっともないね」
小刻みに震える身体。その震えがぴたりと寄り添うフェリチタにも伝播してきて心を揺さぶる。
「そんなこと、言わないで」
みっともなくなんかない、きみの弱さがどうしようもなく愛おしい、この思いが伝われば良いのに、と……唇で唇を塞いだ。
口づけが深くなる。意識が甘く朦朧とする。どさり、と気がつけばフェリチタは寝台に押し倒されていた。
接吻の間隙に青年は吐露する。
「……怖くて仕方ないんだ。初めてなんだよ、戦いに行くのを怖いと思ったのは」
「うん」
柔らかな金髪がフェリチタの頬を遠慮がちにくすぐる。
(いいんだよ、それが普通なんだから。皆、傷付くのは、死ぬのは怖い)
行きたくないと言えばいいのに。決してそうとは口にしない。