騎士団長殿下の愛した花
「僕は幸せを知り過ぎた。でも……手放したくないんだ……」
覆い被さるようにしてこちらを見下ろす琥珀色の瞳が熱を帯びる。彼の厚く柔らかい唇が首筋に触れる。
「……いいよ」
むしろ続きを望んでいるのはフェリチタの方だった。レイオウルの頭を抱え込む。自分が本当に彼の物だという確かな保証が欲しかった。
しかし暫しして落とされたひとことは。
「…………いや、やっぱり駄目だ」
「なんで……」
「僕はきっと、帰ってこられないから」
「っ、そんなの」
「関係無いって?僕にはあるよ。帰ってこない人をいつまでも待っていて欲しくない。幸せになって欲しいんだ」
「……」
薄っぺらい言葉。本心なんかじゃないくせに。
フェリチタは勢い良く起き上がるとレイオウルを押し倒した。
目を見開くレイオウルの右腕に突き立てるように添えたのは、腿に結び付けて服の内側に隠していた折れたサーベル。
「私が武器持ってる事に気づかなかったの?油断するなんて騎士団長失格だね。まさか私がこんなことするなんて思わなかった?」
レイオウルは抵抗しようともしない。フェリチタはがたがたと激しくサーベルを握り締める手を震わせる。
(……すっかり信頼してくれちゃって。本当に刺す気だったらどうするつもり?)
歯噛みしながら思いっ切り振り下ろしたサーベルは、レイオウルの投げ出された腕の数センチ上の布団を深く貫いた。破れた生地の隙間から羽毛が舞う。
「なんで、なんでなの、なんで刺せないの……!」
フェリチタは両手で顔を覆った。
やっぱり彼を傷つけることなんてできない。
「ひとりで行くって言うなら、戦えないように私がこの腕使えなくするんだから!戦場に行けないようにしてやるんだから!ねぇ……っ、お願いだから、行かないでよ……!」